研究概要 |
子どもたちと教師自身による「授業評価」である学級環境測定指標が,近年数多く開発されている.国外では既に,統計的手法に基づくそれらの心理尺度は,教師が担当学級の状況を理解したり,学級環境を改善するために利用されており,教師の「学級経営」を援助するツールとして定着しつつある.日本では,学級環境尺度は学校規模やオープンネスのような学校特性の効果を調べるために利用された例はあるが,教師の学級経営に有効利用された例はまだ少ない. 本研究では,米国で標準化された学級環境尺度(Classroom Environment Scale : Tricket & Moos,1974)の日本語訳及び修正版を,小学生(オープン学習実施校と従来校の児童),中学生(公立校と私立校,不登校の相談学級,少年鑑別所及び少年院等の生徒)を対象に実施して,児童・生徒の学級環境に対する認知・評価が,授業形態・教育目標などの学校特性や子どもの問題行動と密接に関連することを見い出してきた.例えば,教育目標では,部活動や生徒会活動を奨励する教育方針が,中学生の学級での「孤独感」の緩和や「親和」の促進に,また厳格な校則や生徒指導が,生徒の「規律」に対する高い意識と関連する結果が得られた.また問題行動では,不登校生徒は一般生徒に比べて学級での「孤独感」が顕著に強いこと,「教師への親和」が低いこと,非行生徒は学級での「疎外感」が強いことなどの知見が得られた. 今年度は,特に,オープン学習の授業形態を実施している小学校児童を対象に調査を実施した.そこでは,オープン学習実施校の児童が,従来校の児童以上に学級の「秩序」に対する意識が高いこと,授業や学級の活動への「自主的な参加」が多く,学習意欲が高いことなどの結果が得られ,オープン学習は子どもの行動の自由度や自主的参加を高める授業形態でありながらも,教師の権威や教室の秩序を損ねるものではないことが示唆された. オープン教育に関しては,オープン校の児童は,伝統校よりも「秩序」と学校活動の「参加」の意識が高かった. 小学校のオープンスペースは学校によっては有効に使用されているようだが,使用法はまちまちで,適切な使用法を教師に教える必要がある. 小学校のオープンスペース学習での児童の行動分析から重要な知見がえられている.学級を改善する有用な道具を開発するために,これらの事実を注意深く検討せねばならない.
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