研究概要 |
天然の水素中に含まれるHD濃度である300ppm程度の低濃度HDを赤外半導体レーザを用いて定量化する研究を行った. まず,HD分子の赤外吸収スペクトルの測定を行った.モル分率で97.4%のHDガスを光路長0.8mのシングルパスセルに100〜800torr封入して,1.382μmInGaAsP系DFB型半導体レーザを精密に温度制御することにより発信振動数を制御して照射し,1.4〜110kHzの周波数変調をかけてロックインアンプを通して測定を行った.この結果.2-0バンドのR(1)枝が,Herzbergらが1950年に報告した7241.82cm^<-1>の付近に0.02cm^<-1>程度の半値幅をもって観測されることを確認した. 次に,レーザの波長を7241.82cm^<-1>付近に固定し,通常の吸光度法を原理とするHD分子の定量を行った.この結果,通常の吸光度法での検出限界は,光路長0.8mのシングルパスセルを用いた場合に,天然のHD濃度の100倍程度であった.本研究で用いた装置の場合,マルチパスセル(総光路長32m)を用いてもバックグラウンドが高くなるため,検出限界は向上しなかった. HDガスを光路長0.8mのシングルパスセルに0.2〜2torrの圧力だけ封入した試料を通過する際の熱レンズ効果による半導体レーザの広がりを測定した.半導体レーザの発信波長を7241.82cm^<-1>付近で制御し,10〜100kHzの周波数変調をかけるとともに,焦点距離0.15mの凹面鏡を用いてシングルセル内に焦点を結ばせる熱レンズ分光装置を試作した.熱レンズ分光装置では,HD分子の圧力に応じた大きさの半導体レーザの広がりが生じ,ピンホールを用いてビーム中心部分だけを切り出した後にレーザエネルギーを受光素子で検出し,ロックインアンプを用いて信号処理した.さらに,0.001torr以下の圧力まで排気された参照側シングルパスセルに対しても,同時に同一の測定を行い,差信号をとることで,試料による熱レンズ信号の大きさとして評価に用いた.この結果,0.2torr程度までのHD分子の検出が可能となり,天然の水素の同位体存在比にあるHD分子の分圧までのHD分子の検出が可能であることがわかった.
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