研究概要 |
どのようにして器官のアイデンティティーが決定されるのかという発生生物学の基本的問題に対して,ショウジョウバエを用いて発展がみられた.それは,器官のアイデンティティーを決定するマスターコントロール遺伝子の発見である.例えば,複眼のマスターコントロール遺伝子であるeyeless(ey)を異所的に発現すると,その発現に応じて,体のあちらこちらに,複眼が新たにできる.vestigial(vg)は,翅を決定する.したがって,器官アイデンティティーの決定機構を明らかにするためには,これらのマスターコントロール遺伝子の発現が,どのように制御されているかを知ることが,大変重要である. そこで,ey遺伝子の発現制御機構を解析したところ,Notchシグナリングが,複眼原基におけるey遺伝子の発現を制御していることが明らかとなった.さらに,Notchシグナリングは,状況に応じてアンテナ,翅,そして肢を異所的に誘導することが示された.その際Notchシグナリングは,翅のマスターコントロール遺伝子vgとアンテナと肢の決定に関わるDistal lessの発現を誘導していた.すなわち,ショウジョウバエの主要な外部器官である,複眼,アンテナ,翅,肢の形成時には,すべて「Notchシグナリングが,それぞれの器官のアイデンティティーを決定するマスターコントロール遺伝子の発現を制御する」という基本的な共通機構が存在することが明らかとなった.
|