研究概要 |
本研究は最近の発明である原子間力顕微鏡(AFM,Atomic Force Microscope)を使用して、単一タンパク質分子のN-末端とC-末端をつまんで引き延ばした後、再び両末端間距離を縮めてゆくことによって立体構造を再生して、単一分子レベルの人工シャペロニン機能を実現しようとするものである。 立体構造の上下にN-末端とC-末端を持ち、システインを含まないタンパク質として球状構造を持つ酵素である炭酸デヒドラターゼを選んでその両末端にタンパク工学的手法によりシステイン残基を導入し、これを単結晶基板とAFM探針の間にサンドイッチ状に固定した上で、上下に引き延ばす実験を行なったところ,両末端間距離が20nmにまで引き延ばされた時点で立体構造の全体的な破壊が相転移的に進行し、その時点でタンパク質はほぼランダムコイル状に「変性」する。一度伸長したタンパク質の両末端間距離を再び縮めることにより立体構造の再生を促すシャペロニン実験においては,数100ミリ秒の短時間内にアミノ酸残基側鎖間の強い相互作用を示す力学曲線が得られた.この構造がタンパク質立体構造再生反応の初期に対応するものであると考え,基板上の反応時間を10秒程度までのばす実験を行なっている.また,天然型の酵素には結び目構造があることに注目し,延伸の際に結び目ができない変異体を作って力学実験を行ない,天然型と異なる結果を得た.これは結び目がタンパク質の力学的性質に大きな影響を与えていることを示唆している.タンパク質のモデルとしてポリペプチド鎖を使用した力学実験も行ない,新規なデータを得た.
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