研究概要 |
本研究では,固体電解質からの熱イオン放出現象を用いた,大気中で動作するイオン発生源を開発すべく,固体電解質からの熱イオン放出の機構を解明することを試みた。その結果以下の知見を得た。 (1)正イオンの熱イオン放出に伴って過剰となった負イオンが固体電解質から放出されるかどうか,A型ゼオライトを用いて調べた。その結果負イオンは固体からは放出されず,熱イオン放出に伴って固体電解質の非化学量論性が増すことが明らかになった。 (2)なぜ固体電解質から熱イオンが放出され易いかを知るため,ナトリウム,カリウムおよびセシウムイオン交換したモルデナイトからの熱イオン放出とモルデナイトのイオン伝導度との関係を調べた。その結果,放出イオンの固体内伝導性が低いほど熱イオンの放出も困難になることが判明した。これはイオンの固体内移動が速やかな場合には,熱イオン放出に伴って固体電解質表面上に生じる負電荷を持つ空孔を埋めるべくイオンが移動する結果,放出イオン-空孔間のクーロン引力が弱まり,イオン放出が容易になるのに対し,イオンの伝導性が低いと,放出イオン-空孔間の強いクーロン引力のため,イオン放出が困難になるためである。 (3)カチオンが伝導性イオンであるA型ゼオライトや,酸素負イオンが伝導性イオンである安定化ジルコニアにKBrを担持して加熱したところ,臭素負イオンの熱放出が観測された。これは,臭素負イオン放出に伴って固体表面上に生じる過剰正電荷を打ち消すべく,伝導性イオンが固体内で再配向するためである。
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