研究概要 |
ディスプレイに代表される液晶デバイスにおいて,液晶の配向制御は非常に重要な技術である。「液晶配向制御」を考えた場合,1)如何にして液晶分子に高い配向状態をとらせるか(静的な配向制御),2)並べた分子を如何にして効率よく駆動するか(動的な配向制御),という二面性を考慮する必要がある。1)に関しては,現在,基板を配向膜と呼ばれるポリマー(主にポリイミド)で被覆し,その表面を繊維ロールで機械的に擦るラビング法と呼ばれる処理が施されている。最近では,デバイス性能の向上・作製プロセスの簡略化の観点から従来のラビング法の代替技術として光配向が注目されている。この方法の特徴は,光を利用することによって,微小領域でも配向処理を施すことができ,液晶の配向方向を選択的かつ任意に変えることができる点である。本研究では,偏光照射によって光分解をほとんど伴わず,かつ効果的に液晶配向を実現できるポリイミド配向膜を開発し,新しいラビングレス液晶配向制御方法を確立することを目的とした。ガラス基板上に前駆体であるポリアミド酸をスピンコートし,加熱することによってイミド化した後,366nmの偏光を照射し,この基板を用いて作製した液晶セル中にネマチック液晶を封入した。その結果,従来の方法より最波長の光で液晶の一軸配向を誘起できることが明らかとなった。また,液晶の配向方向は照射偏光面と垂直になることが確認された。偏光照射前後におけるポリイミドの構造変化を,紫外可視・赤外吸収スペクトル測定によって評価したところ,ジフェニルエーテル部位を有する芳香族ポリイミドに関してはほとんど構造変化が起こらないことがわかった。また,偏光照射ポリイミド配向膜の液晶配向能に及ぼす温度の影響を調べた結果,光照射に伴う構造変化が最も小さいジフェニルエーテル構造を有する芳香族ポリイミドが熱安定性が高かった。2)の液晶駆動(すなわち動的な配向制御)については,液晶分子の誘電異方性に基づく電界応答を利用した配向制御が主流である。そこで本研究では,光応答性ポリイミド配向膜を利用した液晶の光駆動を試みた。直交した二枚の偏光板の間にネマチック液晶を封入した液晶セル(セルギャップ=5μm)を置き,光照射によるプローブ光の透過光量変化を測定することにより液晶の配向変化挙動を評価した。まず,透過光量(T)と印加電圧(V)の関係を,光照射下と未照射下において調べた。得られたT-V曲線から,配向変化が誘起される閾電圧は光照射下と未照射下とでは著しく異なり,光照射下では閾電圧が低下した。次に,未照射下においてホモジニアス配向が保持されている4.5Vにバイアス電圧を設定し,光照射による透過光量変化を調べた。光照射すると直ちに透過光量は減少し,ホモジニアス配向からホメオトロピック配向へと変化することが明らかとなった。本研究をとおして,「液晶配向制御」技術における光応答性ポリイミド配向膜の優れた潜在能力を示すことができた。
|