研究概要 |
ペンタフルオロフェニル基(C_6F_5)は、電子吸引性基としてだけでなく、電子豊富な芳香環とのスタッキング相互作用を示すなど、ユニークな物性をもつことが知られているが、機能性物質として応用されるには至っていない。この化合物に不斉を導入すると不斉分子認識剤など、新たな機能の発現が期待できると考えられる。本研究において、リパーゼを用いた速度論的光学分割により高光学純度の(R)-および(S)-2-hydroxy-2-(pentafluorophenyl)acetonitrilre(1)をそれぞれ合成し、それらをジアステレオ選択的に光学活性1,2-ジオール類bis(pentafluorophenyl)ethane-1,2-diol、1-(pentafluorophenyl)-2-phenylethane-1,2-diolおよびβ-アミノアルコール類2-amino-1,2-bis(pentafluorophenyl)ethanol、2-amino-1-(pentafluorophenyl)-2-phenylethanolに変換することに成功した。すなわち、ラセミ体(±)-1をlipase LIPを用いて0℃で速度論的光学分割を行ったところ、高い光学純度で(R)-1(96%ee)とそのアセテート(S)-2(98%ee)を得ることができた。さらに(R)-1からthreo選択的にジオール(1R,2R)-体(94%ee)および(1R,2R)-体(87%ee)にそれぞれ選択的に変換することに成功した。本合成経路では、経由するイミン中間体のNaBH_4による還元反応が収率、ジアステレオ選択性を決める重要な鍵反応になっているが、系中にTMSClと水を加えることによって反応が促進され、さらにラセミ化を抑えることを見いだし、threo選択的に(1R,2R)-ジオールを84%eeで得ることができた。また、X線結晶構造解析やNMR測定から、C_6F_5基と電子供与性芳香環化合物との間に興味あるのスタッキング相互作用が観察され、今後こうした物理的性質を分子認識機能や自己集合化機能として新物質に応用する研究の基盤ができた。また、以上で合成された新規化合物を鍵物質として利用して、新しい機能性化合物が合成できると考えられ、引き続き研究を発展させたい。
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