研究概要 |
黒毛和種は我国が誇る唯一の経済的・実用家畜である。その特性は、高品質の牛肉を生産することである。現在までの所、この高品質牛肉を生産する事に関わる原因遺伝子は明らかにされていないが,研究の中心は核遺伝子の検索に置かれている。我々は、もう一つの遺伝子を持つミトコンドリアに注目し,研究を行なっている。黒毛和種はミトコンドリアのD-loopの塩基配列によって、5グループに区分できる。5タイプについて,生産形質との関連を見ると,タイプ4が肉質の向上に関連する事が確かめられた。 そこで,繁殖現場でのミトコンドリア・タイプの効果を見るため、 1)約8000頭の雌牛よりデータを収集し、ミトコンドリアD-loopの塩基配列によって雌牛を分類した。グループ間で経済形質の差の有無を検討した。全体的に見ると環境効果に相殺されて、ミトコンドリア・タイプの効果は顕著ではなかったが、兵庫県の集団では28ヶ月齢未満の個体で,効果が認められた。D-loopは遺伝子のコード領域ではないので、タイプ4のD-loop型と関連する(ハプロタイプを形成する)突然変異が残りのミトコンドリア領域に存在する可能性がある。 そこで、2)タイプ毎に2個体を選び出し、それらについてミトコンドリアの全塩基配列を決定した。その結果、14箇所の塩基置換が発見された。タイプ4に特異的な置換は16SrRNA内で見つかり、他のタイプでは発見されなかった。現在の所、この突然変異がどのような生理的作用を及ぼしているかは明らかではないが、今後検討を要する。 3)黒毛和種のミトコンドリアの区分が判明したので、約1000頭の我国ホルスタイン種を分析した所、我国のホルスタイン種は西洋の同品種と異なって、在来土着牛のミトコンドリアを受継いでいる個体が半数近くに上る事が明らかとなった。 以上,ミトコンドリア・ゲノムの分析を集中的に行なった結果、様々な重要な,発見が為され、今後の我国のウシ品種の育種改良を行なう上での貴重な情報が得られた。それらは近日中に論文として発表する予定である。
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