研究概要 |
近年,医療においてますます強調されている「説明と同意」をさらに推進し,治療を受ける側に評価と治療への参加を求めることが協業collaborationである.しかし,協業を具体的にどう進めるかは,患者と医療関連職者の間で食い違うことが多い.作業機能自己評価(「作業に関する自己評価」に改訂)は,こうした食い違いを解決する方法であると思われる.この評価は事前に設定された文章をチェックリスト方式で示して自己評価を求め,面接を実施する.提示文章は障害を持つ人の能力に関する自己認識,価値観,興味,役割,習慣,技能(能力),環境など,多岐にまたがるもので,セラピストの視点の提示でもある.患者が「問題」と認識した項目に基づき両者で話し合い,治療計画を作成し,治療を実施するという協業の本来の姿がなされるものであると考えられる. 平成10年度からの3年間で,Illinois大学Chicago校Gary Kielhofner教から資料提供を受けて,「作業に関する自己評価」のマニュアルを全訳し,公募したデータ(症例)収集者に協業に関するワークショップを開催し,症例検討会と症例発表会を開催して協業のあり方を検討してきた. 「作業に関する自己評価」を用いて協業を実施した事例と,用いずに協業を実施した事例を比較検討した結果,セラピストが協業という考え方を明確に持てば,特にこれを用いなくとも協業を進めることができた.しかし,この評価法を用いることは,セラピストの視点を患者に開示することになり,それだけ協業の推進を明確にし,進めることができることも明らかになった.慢性障害者の生活の質を高める専門職として出現した作業療法は,協業という概念と「作業に関する自己評価」などの評価法の広まりにより,高齢障害者のケアを必要とするわが国の保健・医療・福祉にますます貢献すると思われる.
|