研究概要 |
我々は前頭葉損傷による記憶障害を中心に研究を進めてきた.本年度はこれまでの研究の成果をふまえ,以下のような検討を行った.1)作業記憶の加齢による影響の検討,2)作業記憶に関連する神経ネットワークの検討,3)意味記憶とエピソード記憶の処理過程についての脳磁図による検討である. 研究結果 1)作業記憶の加齢による影響の検討 正常高齢者を年齢分別にわけ,作業記憶課題を施行した.その結果,作業記憶は健常人においても加齢とともに低下し,その要因は年齢群によって異なることを明らかになった. 2)作業記憶に関連する神経ネットワークの検討, 言語性作業記憶課題を施行中の脳血流変化をfMRIを用いて測定した.その結果,作業記憶には両側前頭前野が関連することがわかった.さらに,作業記憶のなかでも,保持の過程と,保持した内容を操作する過程には異なった神経ネットワークが関与することが示唆された. 3)意味記憶とエピソード記憶の処理過程についての脳磁図を用いた検討 健常人において,エピソード記憶および意味記憶の不整合性に関連する事象関連磁界を記録した.意味的不整合条件では,前年度に示したとおり,いわゆるN400mと考えられる事象関連磁界が誘発された,さらに,意味的には整合でも,エピソード記憶に不整合である条件でも,同様の事象関連磁界が観察された.これらの不整合性に関連する事象関連磁界の等価電流双極子は,主として左側頭葉外側上部および左前頭葉外側に推定された. 前年度までの結果をあわせて考察すると,記憶における前頭葉の役割は前脳基底部と前頭葉外側で異なり,記憶の各サブシステムがある程度独立して機能しうることが推測された.
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