研究概要 |
膵癌血行性肝転移におけるIL-6の関与をより明確にすべく,遺伝子導入法を用いた実験をおこなった.IL-6非産生膵癌株に発現プロモーターを備えたIL-6のcDNAを組み込んだプラスミドを導入してIL-6高産生株を作成して,ヌードマウス肝転移結節数を観察した.その結果,IL-6高産生株は親株であるIL-6非産生株と比較して有意に肝転移結節数が減少した.IL-6高産生膵癌細胞を投与したヌードマウスにおいてのみ血漿中のIgGクラス膵癌反応性抗体活性が認められ,また,膵癌反応性IgGの増強とともに抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)が有意に亢進することから,転移抑制効果にはADCCが関与していると考えられた. また、申請者らはこれらの研究と並行して,RAS抑制変異体N116Yを用いた遺伝子治療の研究をおこなってきた.遺伝子導入効率が良く,CEA産生膵癌特異的な遺伝子発現を目的とし,CEAプロモーターを組み込んだアデノウイルスベクターAd CEA-N116Yを作成し,in vivoにおける肝転移抑制効果について検討した.ヌードマウス肝転移モデルにAd CEA-N116Yを脾注して6週後の肝臓標本で転移結節数を計測すると,モデル作成1日後に脾注した場合には肝内に転移結節を認めず,また,5日後に脾注した場合でも転移結節数が有意に減少した.このことから,脾注されたAd CEA-N116Yは膵癌細胞に特異的に作用し,肝転移を効果的に抑制することが明らかとなった.臨床応用として,膵癌手術前後の潜在的肝転移に対して,N116Yを遺伝子導入することで肝転移を抑制することが期待でき,膵癌に対する有効な遺伝子治療となり得る可能性があると考える.
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