研究概要 |
この研究の目的は口腔保健調査の診査項目を整備し,得られたデータの集計,分析,蓄積および結果の解釈に関し,地方自治体,保健所,保健センターに対し支援することである。その手段として,最終的には,口腔健康調査用のデータペースソフトウエアを試作するものであるが,その構築に不可欠な科学的なエビデンスを得るために1年に1度(6月に)追跡調査を行っている。研究期間の4年間に得られたデータは莫大な量に上り,数多くの研究成果が得られた。 研究対象はベースライン時の70歳600名,80歳163名である。調査・診査項目は口腔診査(有歯顎率,平均残存歯数,歯と歯周の健康診査,根面う蝕,顎間接,口腔粘膜,唾液検査など),生活習慣アンケート,食生活聞き取り,全身疾患・健康状態(問診,一般検査,血液検査,心電図など),運動機能測定,骨密度測定など可能な限り多く設定した。研究成果の概要は以下の通りである。1)歯列・咬合破壊は身体的,精神的な健康悪化,および生命予後と密接に関連していた。2)咬合破壊は歯の喪失が主原因であり,歯の喪失をもたらす一因に根面う蝕がある。根面う蝕の発生に関連している要因はベースライン時に根面未処置歯あり,歯冠う蝕経験あり,LAが大,唾液中lactobacilliレペルが高い,歯間ブラシ・フロスを使用していないという口腔関連変数に加え,BMIが小がリスクプレディクターであった。3)歯周疾患進行のリスクファクターには,喫煙とLA6mm以上が有意に関連した。4)X線学的研究では,残存歯の37%が無髄歯であり,そのうち36%に根尖病巣が認められ,かつ30%の骨吸収度であった。5)喪失歯の発生者率は30.8%,一人平均の年間喪失歯数は0.27本であった。また,歯の喪失リスクに関する要因分析の結果,歯周状態や歯の修復状況,根面う蝕などの口腔局所の要因に加え,高齢期の全身健康状態が歯の喪失に関わっていることがわかった。6)抗酸化剤としての重要性が認められているビタミンC, E,カロテン類を供給する緑黄色野菜群の摂取量が,咀嚼能力の低い群で有意に少なかった。7)寝た切りにつながる下肢の筋力,バランス,敏捷性の低下に有意に影響する因子として咬合支持数の減少があげられた。 以上より,高齢者の健康水準を左右する口腔要因としてカギを握る歯の喪失に影響を及ぼす要因をターゲットに予防プログラムを策定することになる。
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