研究概要 |
本研究では、健常成人とLD児による到達運動の軌跡を計測し、視覚情報を回転した環境に対する適応について分析した. 被験者は健常成人2名(19歳と24歳,男)とLD児2名(13歳,男)の計4名.被験者の胸の高さに設置した水平なスクリーンの下面で,正中線上のスタート地点を出発し,もう1点の視標までの到達運動を行った.各被験者それぞれ4種類の視標について各30試行を計測した.Exposure period(Trials11〜20)でのみ,カーソルはスタート地点に対して30°回転移動した手先位置を呈示する. 到達運動では,はじめに素早い運動(弾道運動)が生じる.このときの運動方向と到達運動のゴールである指標の方向がなす角度を初期ずれ角θ,その後に続く修正運動も含め,軌道全体とスタート-ゴールを結ぶ直線で囲まれる面積をずれ面積Aとし,これらを適応の評価に用いた. Exposure periodの最初の試行(Trial11)において,初期ずれ角θは,健常成人,LD児ともに約-30°を示したが,ずれ面積Aについては,LD児の値が健常成人よりやや大きくなった.LD児が修正運動を不得意とした結果であると考えられる.次に,Exposure periodにおいて,試行を繰り返すにしたがって適応が生じ,ずれが減少した.減少速度は,ずれ面積Aに比べ,初期ずれ角θにおいて健常成人とLD児の差が顕著となった.Exposure periodの全10試行の初期ずれ角の合計の平均値はLD児で149.5degとなり,健常成人の78.8degに比べて有意に大きくなった(p<0.05).これは,LD児の弾道運動の計画段階での適応が遅いことを示している. 本実験ではわずか10試行のトレーニングによって到達運動に適応が生じ,残効現象も確認できた.適応によるずれの減少がLD児において有意に遅かったことから,LD児では軌道生成を行う過程(たとえば内部空間など)での適応が生じにくいことが考えられる.
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