研究概要 |
体内に取り込まれたカドミウムはほとんど排泄されることなく残留し続けるため人間体内のカドミウム濃度は加齢と共に増加する。カドミウムは穀類中に比較的高濃度に存在することから,米類を多食する日本人は欧米人に比べると組織中カドミウム濃度が高い。日本人の腎臓中に蓄積しているカドミウムはそのほとんどが重金属毒性軽減蛋白質メタロチオネインに結合した"低毒性"の形で存在しており,一般成人の腎臓中に蓄積しているカドミウムの濃度はメタロチオネイン遺伝子を欠損させたマウスを死に至らす濃度の数倍にものぼる。しかし最近,比較的高齢にも関わらず腎臓中のメタロチオネイン濃度が極端に低い日本人が存在することが明らかとなった。そこで,法医解剖された55例について平成10年度に腎臓中カドミウム濃度を測定したところ,低いメタロチオネイン濃度を示す個体の存在が確認された。この低メタロチオネイン症が生じる原因として遺伝子の異常が考えられることから,平成11年度には日本人の腎組織中でのメタロチオネイン遺伝子およびそのプロモーター領域における塩基配列異常の有無を一本鎖DNA高次構造多形検出法(PCR-SSCP)により検出した。法医解剖検体の腎皮質(21例)よりgenomicDNA抽出してSSCP法およびdirect sequencing解析によりヒトMT-IIA遺伝子の変異を検討したところ,プロモーター部に一塩基置換のあるものが4例,エクソン3に一塩基置換があるものが2例確認された。プロモーター部の変異は4例とも転写開始点から5′側上流の5塩基目に認められ,全例がA→Gの置換であった。一方,エクソン3の変異は2例とも同位置のGCC→GTC置換であり,Ala→Valの1アミノ酸変異をもたらすものであった。また,これらのうちの1例は同一アレルプロモーターとエクソン3の両方に置換が認められた。今後はこれらの塩基置換がメタロチオネイン蛋白質の合成に与える影響について検討する必要があろう。
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