研究課題/領域番号 |
10610056
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
美術史
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
秋山 光文 お茶の水女子大学, 文教育学部, 教授 (60130861)
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研究期間 (年度) |
1998 – 2000
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研究課題ステータス |
完了 (2000年度)
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配分額 *注記 |
3,800千円 (直接経費: 3,800千円)
2000年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
1999年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
1998年度: 2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
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キーワード | ドヴァーラヴァティー / 仏教美術 / 彫刻史 / 東南アジア美術 / 東南アジア |
研究概要 |
本研究の最終年度となった平成12年度は、これまで収集した画像資料について、基礎データの確認作業を行うとともに、個々の作例について法量や図像的特徴など詳細な文字データを組み込む作業を中心に作業を進めた。こうしたデータ整理が一通り終了した段階で、ドヴァーラヴァティーを取り巻く周辺地域における同時代的作例を主に写真資料によって検証し基礎データに加えるとともに、ドヴァーラヴァティー彫刻様式の成立プロセスを解明する比較検討資料とした。こうして準備されたが基礎データをもとに分析を加えた結果、次の諸点についてドヴァーラヴァティー様式成立プロセスが推論されるに至った。従来、この彫刻様式は全体的な作風からインドのグプタ朝時代のサールナート美術の流れをくむものとされてきた。しかし、今回の調査でほぼ同時代に展開したミャンマーのピュー王国における初期彫刻様式との共通性から、両地方に共通する南インドのアーンドラ地方の仏教彫刻様式(アマラーヴァティー美術)から影響を付加しなければならないことが判明した。前者を代表する典型的な作例としてたとえば、アユタヤのワット・ナープラメーン発見の仏陀立像(像高173cm、バンコク国立博物館)は、比較的大粒の螺髪や先がやや尖った小ぶりの肉髻、左右の眉が連続する「連眉」、瞼がうねった吊り上がり気味の目、小さく張った鼻翼、厚い口唇など、その頭部と顔容にかかわる造形はもとより、通肩にまとう大衣の胸元の縁や襞を省略し、身体の線を強調する薄い衣の処理、奥行きを減じた浮彫り的な体躯表現、腰高なプロポーション等々に著しい特色を見せる。このなかでも、衣文を表さない形式はインドのサールナート派に見られる後(ポスト)グプタ様式の濃厚な影響と結び付けて論じられてきており、今回の調査でもこの点を再検討する新たな資料は見いだし得なかった。たしかにこれは、7世紀に始まるドヴァーラヴァティー様式の仏像に通有のものともいえ、かなりの部分が8〜9世紀の造像まで継承されていくことが確認できた。しかし、チャイヤーのワット・プラ・バロマタート出土仏坐像(高さ104cm、チャイヤー国立博物館)のように半跏趺坐に組む坐法は、アーンドラ地方からスリランカにその図像的淵源が求められ、しかも同様の作例がマレー半島からミャンマー南部、インドシナ南部におよぶ広い地域に偏在するところから、この彫刻様式発生の要因としてインド亜大陸東海岸一帯から波状的に及んだ複数の彫刻様式のなかでも、アーンドラ地方からの影響は看過できないことが判明した。特に、ドヴァーラヴァティー王国を興したモン族の出自が、ミャンマー南部タトーン地方であることを勘案すれば、ミャンマー古代彫刻との強い結びつきが想起され、本様式の淵源と共通するとの結論に達した。
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