研究概要 |
本研究では,側方の頭部運動中に静止した立体画像を観察すると,その画像が頭の運動に同期して運動して見えるという現象(立体視的運動錯視)について調べた.その結果,以下のことが明らかになった. 1)見かけの運動量は,基本的には,運動距離不変仮説によって説明可能である.視覚系は,あたかも,刺激の網膜像差,頭部運動,刺激提示面までの観察距離手がかりを利用して見かけの運動量を計算しているかのようであった. 2)ただし,見かけの運動量は,交差性像差では,刺激は物理的な幾何学的予測とよく一致したが,非交差性刺激では一致しなかった.一方,見かけの奥行は網膜像差の種類に関係なく幾何学的予測と比較的よく,一致した.これらの結果から,立体視的運動錯視を媒介する機序は,交差性と非交差性で分離可能であろうと推論された. 3)また,運動錯視を生じる最小の頭部運動は,約30′であり,網膜像差の種類,大きさには依存しないことがわかった. これらの結果を踏まえ今後は,頭部運動が錯視運動へ変換される機序の特性をさらに詳しく検討して行きたい(Shimono et al.,準備中). われわれはまた,本研究に関連して,立体視空間における眼球位置の役割に関する実験的研究(Shimono,et al.,1998,1999,2000)及び,文献的研究を行った(下野ら,2000).
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