研究概要 |
本研究では,日本語文の読みに及ぼす表記形態の影響と読みにおける停留位置の決定因について検討するため,文の表記形態を実験条件として操作し,読みの時間と眼球運動を測定する2つの実験を行なった.それらの結果から,おもに以下の点が明らかとなった. 1.平仮名文の場合には,文節間に空白がないときに比べて,文節間に空白があると読みの時間が短かった.眼球運動の測度については,空白があるときの方が総停留数が少なく,文節に対する総停留時間が短く,文節に対する最初の停留が最適停留位置に近かった.これらの結果は,平仮名文の読みでは,文節間空白によって平仮名の並びから各単語への統語解析が容易になるとともに,文節間空白が文節に対する最初の停留位置の決定に対する手がかりとなることを示唆している. 2.漢字仮名交じり文の場合には,文節間空白は読みの時間や眼球運動の諸測度にほとんど影響しなかった.文節間空白のない場合についてみると,平仮名文に比べて,漢字仮名交じり文の読みでは,読みの時間が短く,総停留数が少なく,文節に対する総停留時間が短かった.また,文字に対する停留率をみると,平仮名直後の平仮名に比べて,漢字あるいはその直後の平仮名に対する停留率が高かった.これらの結果は,漢字仮名交じり文の読みでは,漢字が統語解析を容易にするとともに,眼球運動誘導の手がかりとなっていることを示唆している. 3.平仮名文と漢字仮名交じり文のいずれの場合にも,文節に対する最初の停留位置は直前の停留位置が当該の文節から離れているほど文節のはじめに近かった.この結果と上述の結果は,日本語文の読みにおける停留位置は,文節間空白や漢字といった低次の視覚処理によって獲得される情報が手がかりとなって決定されるだけでなく,直前の停留位置にも依存して決定されることを示唆している.
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