研究概要 |
本年度は洞察問題解決における個人差についての実験的研究を行うとともに,近年出版された洞察研究との対比を中心に研究を行った.制約の動的緩和理論(開・鈴木,1998)に従えば,個人差の源泉は,制約強度の初期値の違い,試行の評価の適切さ,制約強度の更新率(学習率)となる.この予測を検証するため,洞察を必要とする図形パズルを10分以内で解決した被験者と10分以上かかった被験者の比較を行った.その結果,制約強度の初期値,評価の適切性について両者の間に違いが見られたが,更新率には違いが見られなかった.この結果は,洞察に至る被験者ははじめから非標準的な試行を行い,自らの試行に対する評価を適切に行うことを意味している. 近年の研究との対比では,洞察研究において注目すべき成果を上げている1.標準問題解決アプローチ,2.記憶検索アプローチ,3.問題空間アプローチ,4.機会論的アプローチ,5.制約論的アプローチ,を,主に有効情報の利用の時間依存性,問題解決中の学習の2つの観点から検討した.その結果,いずれのアプローチもこれらについて十分な説明を与えることができない一方,我々の提唱する制約の動的緩和理論はこれらについての合理的な説明を与えることが明らかになった.そしてさらなる課題として,洞察の意識性の問題,認知神経科学との関連,その他の創造的問題解決との関係が挙げられた.
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