研究概要 |
本研究の第1の目的は,最新の音声デジタル化技術を用いて,被験者の音読反応を音素レベルで分析し,正確な反応潜時を求めることにより,意味的プライミング効果について詳細に検討することにあった.具体的には,文中の多義動詞の理解における統語的情報と意味的情報の相互作用に関して,プライムを聴覚提示し,ターゲットを視覚提示するクロスモダル・プライミング法と音読課題を用いて実験的検討を行った.第2に,上記の実験事態に対応したコネクショニスト・モデル(並列分散処理モデル)を作成し,コンピュータ・シミュレーションを通して本研究の実験データに対する予測と説明を行うことを目的とした.コネクショニスト・モデルは,脳神経系から抽象化された処理ユニットのネットワークに基づいて,人間の認知の仕組みにアプローチすることを試みている.筆者のグループが作成した相互結合型ネットワークに基づくコネクショニスト・モデルは,汎用性が高く,筆者らによる過去の様々な実験データを説明することができ,さらに,本研究における今後の実験データを予測することができる.第3に,音読課題を用いた実験のために,米国のカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究グループがRunwordと呼ばれる実験・測定プログラムを開発しており,そのプログラムを日本語環境に拡張する作業を行った.さらに,追加的な発展的研究として,(a)刺激材料(用字)の出現頻度の変動と,(b)音声の発話速度の制御が話者の印象に与える影響に関しても検討を行った.このように,音読課題を用いた意味的プライミング効果の音素レベルにおける検討を軸として,コネクショニスト・モデルによるコンピュータ・シミュレーション,実験・測定プログラムの改良,単語の出現頻度の分析,音声発話認知の検討といった多様な研究を3年間で行うことができた.
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