研究概要 |
本研究は,顔認識の初期過程における情報処理特性を明らかにすることを主たる目的とした。研究は,「顔の2次元的画像分析処理」,「顔の3次元的画像分析処理」,および「顔画像特性がより高次の認知過程に及ぼす影響」という3部より構成された。顔の2次元的画像分析処理については,顔認識時の空間周波数特性に関する研究のレビューとフーリエ理論に基づくいくつかのデモンストレーションを通して,人が顔を認識する時の情報取得特性について考察された。また,人物同定や表情認知よりも原始的な反応である顔の検出課題において,画像に含まれる明暗あるいは配置の情報がどのように用いられているかを実験的に検討した。顔の3次元的画像分析処理については,hollow face錯視の成立要因や,心的回転課題において顔のどのような情報が用いられるかに関して検討を行った。さらに,顔画像の特性が高次の認知過程に及ぼす影響について,顔に表出された表情の伝達率の検討,および伝達された表情情報が会話内容の評価にどのように影響するかについての検討がなされた。これらの研究の結果から,倒立の顔や写真のネガから人物あるいは表情を識別する際に認められる顔に特有な知覚現象が,顔の情報処理過程における情報取得特性を反映するものであること,呈示されたパターンが顔かどうかを検出するという原始的(対象クラス間の)弁別課題や,陰影からの構造復元といったような低次の視覚情報処理過程においても,この顔特有の情報処理特性が反映されていること,顔認識には顔構造についての3次元表象よりもむしろ2次元的な顔表面のテクスチャ情報が重要であること,顔から視覚的に与えられる情報が会話内容の評価のような高次の認知過程にも大きく影響することなどが認められた。これらの結果をもとに,顔の情報処理モデルを,現在よりもより低い段階から高い段階にまでわたって記述する必要性が示唆された。
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