研究概要 |
本研究は,数学的問題解決における類推転移を促進する抽象的知識の性質について検討した. 実験1では,大学生の被験者39人を3群に分けて,順列課題を解答させ,その解法を,3通りの教示(等式に基づく解法の教示,サブゴール教示,教示なしの統制群)をした.そして,(問題文の類似性と要素の役割を操作した)5種類の転移課題への解答を求めた.その結果,等式教示とサブゴール教示は,統制群に比べて,転移成績は良かった.しかし,(転移における)反転ミスの比率は,等式教示やサブゴール教示は,統制群よりも多かった. 実験2では,大学生の被験者29人を2群に分けて,実験1と同様の手続きを用いて,順列課題を解答させ,(反転ミスを起こさないように)知識の性質を操作するために(2通りの方法で問題文における要素の)役割の教示をした.(選ぶ側-選ばれるという)具体的役割の教示と(する-されるという)抽象的役割の教示である.その結果,具体的役割教示群は抽象的役割教示群よりも転移成績が高かった。しかし,反転ミスの比率に関しては,問題全体を通しての反転ミス率に差はないが,問題ごとのパタンには差があった. 実験3では,大学生の被験者119人に,実験1と同じ4通りの教示で例題の表象水準を教示で操作し,例題-ターゲット問題の表面的類似性と等式上の判断課題をおこなった。そして,クラスタ分析によって,問題間の類似性認知の構造を検討した。その結果,サブゴール教示群は,例題と同型な問題に対して,表面的,等式上の両レベルで類似性の認知を高めた。 以上の3つの実験の結果,数学的問題解決の転移を促進する知識は,解答過程におけるサブゴールと,具体的な役割関係を明示することが大切であることが明らかになった.さらに,そのことが,表面的な類似性を手がかりにした適切なベース問題の検索,等式類似性に基づくターゲット問題との対応付けを促進することが示唆された。
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