研究概要 |
中世国家において権力を分担していた朝廷や社寺が近世の幕藩制国家に編入されたとき、彼らが中世において有していた法体系がどのように維持され、あるいは変化し、新たな「独自」の法体系を生み出したかを検討するために以下の分析を行った。 1、近世の「寺法」がどのような適用範囲を持っていたかを、日蓮宗本門八品勝劣派本能寺を例として分析した。 2、中世以来の法体系が近世に入ってどのように維持され、あるいは変化し、新たな機能を持つようになったかを、浄上真宗西本願寺派の中世以来の「有識故実」(制度法の一種)と「寺法」との関係を素材に分析した。 3、「寺法」と藩法との関係との相互関係を浄上真宗東本願寺派僧侶の誓詞を素材に分析した。 以上の検村により得た成果は次のとおりである。 a,近世の「寺法」の適用範囲は、自己の教団の僧侶や領地だけではなく幕府領や藩領に居住する武士や庶民などの信徒まで及ぶこと。 b,有識故実の一つである個別的な官位叙任「規定」が幕藩制国家下の「寺法」に継承され、近世の寺院統制システムである本末制度における教団支配維持のためのイデオロギー装置や階級制度に転化していたこと。 C,bにみられるような中世法の「寺法」への展開は、近世国家における二つの王権(公儀権力者と天皇)の併存と密接な関係を持っていること。 d,藩に居住する教団構成員に対し「寺法」のほか居住地の藩の「領法」「国法」が適用されているか、後者が前者に優越する傾向があること。
|