研究概要 |
1,今年度は、一昨年以来継続してきた『名公書判清明集』戸婚門巻6,巻7の訳注作業を完成させた。本書は南宋代の立法情況や司法実務を知る格好の史料であるが、本訳注によってこれまでに公表されているた訳注と併せて、本書の戸婚門の訳注はすべて出揃ったことになる。 2,明清時代と比較して宋代になぜ民事法が豊富であるかという問題は、容易には解答をあたえがたい問題である。この問題については宋朝が行政を官僚の個人的能力や資質に依拠するのではなく、法令に準拠して行わせようという志向を持っていた点に、その主要な理由を求めるべきであると私は考える。宋朝は、皇帝の意思を皇帝と官僚との個人的な信頼関係によってではなく、法令という準則を通じて実現し、それによって行政の統一的運用を目指していたと考えられる。但しこの試みは成功したとは言い難い。以上の点については拙著『宋-清身分法の研究』(北海道大学図書刊行会、2001年)の中で指摘しておいた。 3,一昨年私は「明律『威逼人致死』条の淵源」と題する論文を公表し、明律以前にすでに自殺の誘起を犯罪視する考え方があったことを論じたが、しかしその論証は南宋代における法の運用状況を通じてなされたものであった。それゆえ、そもそも唐律に自殺の誘起を犯罪視する考え方があるのかという疑問が提出されるであろうことは当然予測されるのである。この予測される疑問に対して、私は自殺の誘起を犯罪視することを明確に示す唐律の一条を発見し、本研究の研究成果報告書の中でそのことを論じておいた。。
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