研究概要 |
古英語のテキストであるAElfric's Catholic HomiliesとOrosiusを取り上げ、そこに見られる派生名詞に関して下記の点を中心に調査した。 (1)派生名詞の統語構造、特に、項の具現のされ方、主要部と項の位置関係。 (2)そして、基体となる動詞の項構造と、その派生名詞の項構造との関係。 調査の結果、古英語には、いわゆる項構造をもつComplex Event Nominalの読みをもつthe enemy's destruction of the cityに相当する形(少なくともその存在を示す積極的な証拠)が見あたらないということが確かめられた。-ing,-ung名詞についても,現代英語ではgerundive nominalと呼ばれ,Complex Event Nominalの性質を示すが,OEのing名詞は,その性質を示す例はほとんど見あたらないことが確かめられた。OEのNP構造の中で、なぜ、項構造をもつといわれているComplex Event Nominalが無く、項構造をもたないとされるSimple Event NominalやPassive Nominalしかなかったのか、これは、今後、理論的な問題として解明されるべき課題となる。また、本研究によって確認されたComplex Event Nominalとしての派生名詞の欠如は、MEにフランス語から導入された派生名詞の接辞(-ation,-ance,-enceなど)とどうかかわるのか、また、ME以降に発達した動詞的動名詞との関係など、いつくか興味深い問題の解明に発展する可能性を秘めている。
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