研究概要 |
19世紀から20世紀への転換期に,ヘルマン・バールは精力的に多方面にわたって活躍した。今日彼は「ウィーンのモデルネ」の代表的な批評家として評価されている。しかしその活動に一貫性を見出すのは,そうたやすいことではない。この研究において私は,バールの日本への関わりに関連させながら,彼が常に変わらず何に関心を持ち続けていたか,彼にとって根本的な問題は何であったのかを探ってみた。ウィーンのモデルネの推進者であった時期に著された批評文「日本展」からは,概念では解き明かせないものを捉える理想の力に対するバールの関心が読み取れる。戯曲『マイスター』でバールは,ある日本人の登場人物に理性を重視する西洋文化を批判させ,主人公のヨーロッパ人に反論させている。この作品では理性の問題性が扱われている。この両方の作品において,バールにとっては概念や理性で把握されえない事態が問題であったということが言える。バールは転換期においてはすでに,「日本展」への批評において高く評価していた感性や原感覚によっても,また『マイスター』で取り上げている理性に対比された「心」によっても捉えられえない事態を問題にしている。それゆえ転換期のバールの問題意識とその直前の問題意識の間には相違がある。しかしまた,転換期におけるバールの関心を概念や理性への批判を深めたものとみなせば,連続性を認めることも可能である。
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