本研究では、従来からてがけていたロス疑惑報道による名誉段損・プライバシー侵害に関する多数の判例の分類・整理作業にもとづき、研究協力者との会合を通じて各論点についての分析を行ってきた。しかし、その成果は近日中に研究協力者との共同執筆により著書としてまとめ公表する予定であるため、研究成果報告書にはその成果は直接には反映されていない。本報告書では、それ以外にこれまで進めてきた研究の成果を、「公人の名誉保護と表現の自由」、「モデル小説と名誉・プライバシー」、「有名人のプライバシーと写真報道の自由」、「救済手段-反論・訂正」の4つのテーマを中心にまとめることとした。 このうち「公人の名誉保護と表現の自由」は、本研究の総論に相当するものである(報告書第1章に所収)。この研究によって、アメリカやドイツとくらべて、日本の判例が公人の活動を批判する表現の自由を十分に尊重していないということが明らかとなった。 また、近年、日本で問題になっている小説による名誉段損・プライバシー侵害について、ノンフィクションノベル『女高生・OL連続誘拐殺人事件』と小説『石に泳ぐ魚』をめぐる訴訟を素材に検討した(報告書第2章に所収)。さらに、「有名人のプライバシーと写真報道の自由」について、ドイツの憲法判例を手がかりに検討した(報告書第3章に所収)。このほか、マス・メディアによって名誉が毀損され、プライバシーが侵害された場合の救済手段について、日本の放送法の訂正・取消放送制度とドイツの反論権制度を手がかりに考察した(報告書第4章に所収)。
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