研究概要 |
二年間の本研究は,国際司法裁判所の少数意見制の意義と機能ならびにその問題点を明らかにすることであった。初年度はまず,この制度がいかなる経過で本裁判所に導入されたか,1921年の常設国際司法裁判所の創設時に遡ってこれを考察した。その結果、英米法系の国は概してこの制度の採用に積極的であったが,大陸法系の国は否定的であったことが判明した。裁判の担い手は個々の裁判官にあるとする英米法系では,少数意見の表明はむしろ当然としつつ,かつ,それが法の発展に資するとみるのに対し,裁判の担い手は一つの組織体としての裁判所にあるとみる大陸法系では,一つの裁判所が複数の異なる意見を出すことは認められず,かつ,それは採決の権威を害することになるとみる。次に,本制度の積極的側面を具体的判例に促して検討した。すなわち,本制度がもつ法の発展機能,判決の明確化機能および判決内容の向上機能である。 本年度は、現状での少数意見の問題点を検討した。大別して問題点は二つあり,一つは,少数意見の増大現象であり,他の一つは,攻撃型意見の増加である。前者は,一件の判決に付される意見(個別意見と反対意見)の数の増大と、一つの意見の分量の増大(長文化),の二点を含む。いずれの場合も,個別意見と反対意見との場合を分けて問題点を整理する必要がある。後者の攻撃型意見の増加,すなわち判決の非難・批判を主眼する少数意見が今日増大していることは,判決の権威の尊重という観点からより重大である。これは少数意見のあり方に関連する基本的問題を内包している。少数意見は少なくとも国際司法裁判所においては,判決に賛成できない点について自己の意見を述べることであって,判決を攻撃するためのものではない,という制度の本旨を再確認しつつ,上記の現状の改善が図られなければならない。
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