研究概要 |
本研究は,市場間競争に打ち勝つべく,活性化と革新性を旨として活発に進められてきた証券市場の制度改革の下で,証券価格のボラティリティ増大に鑑み,体系の安定性あるいはグローバルな金融・資本市場のシステミック・リスクが一体どのように理解できるかを,「市場流動性」の行方に焦点を当てて分析しようとしたものである.そのためにNYSEの「スペシャリティ制度」を通したマーケット・メーキング機能(価格の連続性と市場の厚み)が,機関投資家の成長によるブロック・トレーディングの導入以来受けてきた挑戦を問題にする.とくに取引コストを低下させるべく取り入れたデリバティブズによるブロック取引の遂行が現物市場に与える価格をインパクトを介して裁定取引の余地を生みだし,これがどのようにスペシャリストの機能遂行に困難を課すかを,ブラック・マンデーにおいて「流動性が幻想に終わった」事態に至らしめたポートフォリオ・インシュアランスを取上げてを解明した.以上の考察から,金融・資本市場の安定性を論じる構築素材と枠組を「ノイズ・トレーダー・モデル」に求めることが適当であると論じるが,従来のバリュー.トレーダーとノン・バリュー.トレーダーとの比率がクラッシュ発生にクリティカルであるという議論を超えて,これに更に「機関化」に伴う投資家の視野の短期化や行動特性(とくに市場変動に対して機械的に対応する「マクロ・インベスター」について),あるいはポジティブ・フィードバック戦略を引き起こす期待形成や「群れ行動」といった諸要因を組み込んだ「拡張型」NTモデルの構築を主張している.また,アジア危機など新興諸国の通貨・金融危機に対するNTモデルの適用において,「クローズド・エンド型カントリーファンド」の(ファンダメンタル価値に対する取引価格の比率である)ディスカウントの動きが、危機後もそれ以前の動きへと回帰せず、いわば「長期的記憶効果」(フラクタル時系列)を受けると考えられることに留意し,これをG.ソロスの(価値評価とファンダメンタルズ間の)「再帰的相互作用」の適用例として理解した.その上で,クラッシュ発生のメカニズムを明らかにすべく,「再帰的相互作用」を組み込む金融・資本市場モデルのシミュレーション分析を行う予定で,ここから資産の現在価値の「逆転」を起点として危機が伝播するメカニズムを明らかにし,かつ経済の長期均衡を「自己組織化」の概念によって提示しようとしたが,実施する至らなかった.
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