研究概要 |
経済法(特に,独占禁止法)では,独占及び「独占的状態」が経済,特に社会の便益(厚生)に与えるマイナスの効果を防ぐために公正取引委員会が何らかの[措置]を取ることが明記されている.過去,米国では独占や独占的状態が社会や消費者からレントを奪うことを理由に,企業分割等によって特定企業の強大な市場支配力を削ぐことが実行された.独占的状態にある市場は日本のみならず先進諸国ではかなり広汎に存在する.企業分析を行う際に我々は伝統的に独占禁止法が存在しないものと暗黙の内に仮定して来た.しかしながら,この仮定は現実的妥当性を失っている.我々は,クールノー数量競争を展開する複占企業モデルを用いて,独占禁止法で規定される措置が実施されるとき,それが企業の産出量,価格,市場シェア及び余剰にいかなる効果を与えるかを考察した.その措置として企業分割とR&D情報の無償供与の2つケースを取り上げた. 企業分割は企業にとって明らかに利潤の低下を招く.そして消費者余剰や社会厚生を増加させる効果を持つ実効的手段である.しかし市場シェアの削減には必ずしも有効ではない.特に,企業にとって市場シェアを当局が許容する範囲内に収める戦略をとることが肝要である. 当該委員会が市場シェアをもとにR&D情報をライバル企業へ無償供与を行わせるか否かがトップシェアを持つ企業にとって不確実であるとき,その措置が取られることに対する企業の主観的確率は後者の産出量を減少させる効果を持つが,前者の産出量を増加させるか,それとも減少させるかはその確率と財の代替の程度に影響される.またその措置の価格への効果は一般に不明である.各企業の利潤及びシェアは独占禁止法の適用可能性によって影響され,おそらく適用される企業にとってはそれらは低下するものと思われる.投資情報の公開という手段の実効性はそれ程高くない.
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