研究概要 |
1990年代に進行したグローバリゼーションの基本的特徴として,(1)多国籍企業に加えて情報技術革新とIWFと世界銀行の支援を受けた金融グローバル化の進展,(2)世界的な民営化の拡大と急速な市場経済移行,(3)アメリカの覇権の復活と「アメリカ標準」の世界化,(4)「富裕かつ動きの迅速なもの」「貧困かつ動きののろいもの」へ世界の両極化,を指摘することができる. 「世界銀行の構造調整政策と市場経済移行戦略の再構築」と題した本研究では,1990年代のグローバリゼーションの進行とIMF・世界銀行の関係を検討した.主要な発見は以下のとおりである. 第1に,世界銀行とIMFが進めた構造調整政策の評価は別れる.中南米諸国では,無礼ディ債務削減構想と国営企業の民営化,外資誘致が結びつき,「失われた10年」からの脱出に成功したが,貧富の格差が拡大した.サブサハラ・アフリカを始めとする最貧国では,構造調整政策は民衆の生活水準引きあげに成功していない. 第2に,旧ソ連・中東欧諸国の市場経済移行では,IMF・世界銀行の推奨する急進路線が多くの国で採用されたが,西側とつながりの強いチェコ,ハンガリー,ポーランドなど少数の国を除いて,生産の落込みから回復していない.生産基盤強化,市場経済がワークするための条件整備や制度構築が後回しにされたからである. 第3に,1997年タイに始った通貨金融危機は,アジアの広範な地域に,そしてロシアやブラジルにも伝染したが,共通してヘッジファンドや大手国際金融機関による大量の資本流入とその急激な流出が背景にあった.IMF・世界銀行が,エマージング諸国の金融システムの健全性強化なしに自由化を進めさせ,また危機対策として短期の緊縮政策と中長期の構造調整政策の同時実行を迫ったことが,危機をさらに深化させた. 第4に,以上の点から,IMF・世界銀行を「人間の顔をした」機関に改革する必要が明らかになった.各地域がもつ多様性,内在的諸条件を政策策定に組込み,当該国の人々,市民社会の主体性と結びついた政策が求められるのである. 研究の最終年には,これまでの研究成果を単著『グローバリゼーションとIMF・世界銀行』(大月書店,2001年2月)の形で出版した.
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