1999年の欧州経済通貨同盟の発足によって、通貨統合への関心が高まり、世界各地で同様な可能性が議論されている。通貨統合には、為替リスクおよび取引コストの撤廃などメリットがあるが、各国にとって、その費用は金融政策の独立性を失うことにある。一般的な理解では、この費用は、通貨統合によって非対称的ショックが軽減するか否かに依存する。すなわち、通貨統合によって非対称的ショックが軽減するならば、独立した金融政策を失う費用は軽減され、通貨統合の相対的メリットは増大する。以上のような観点から、本研究は、沖縄の経験から得られるデータを使い、通貨統合の経済効果を計測した。沖縄に注目したのは、欧州から十分なデータが得られるのは遠い将来であり、国際的な政策論議に素早く資するには、より古い通貨統合を分析する必要があったからである。幸いにして、沖縄の場合、1958年にはドル通貨圏に併合され、1972年には返還に伴い円通貨圏に併合されたので、2度にわたるデータが存在する。また、この経験は通貨史において特異なものであり、通貨統合一般の問題とは別途に、基本的史実をまとめ、データをそろえるだけでも、文献への重要な貢献である。本研究で得られた主な結果は、以下の通りである。通貨統合によって、二つの経済地域間において、(1)相対物価水準の分散は低下する;(2)物価リンクは強くなる;(3)景気循環はより等しくなる;(4)非対称的ショックの規模は小さくなる。これらの結果から結論されるのは、通貨統合が、名目変数のみならず、実質変数の相関関係をも高める、すなわち、通貨統合の是非を判断する基準が内生的である、ということである。なお、本研究を英文でまとめた論文は定評ある国際的学術誌によって改訂を要求され、現在、再審査中である。
|