研究概要 |
市場集中義務が撤廃され,取引所立会時間外の取引(立会い外)および証券会社や機関投資家が取引所を利用しないで行う取引(取引所外取引)が盛んに利用されるようになった。こうした制度改定により市場参加者は取引する「場」(提供される取引機会)の選択が可能になり,場の提供をめぐった競争が活発になったと広く認識されるようになった。このことに関する経済的含意を,「市場間競争とその経済厚生について」として公表した。 聞き取り調査を重ねたところ,立会い外や市場外取引でもっとも典型的な形態は,機関投資家が複数銘柄からなる「バスケット」の一括売買を証券会社相手に行うものであり,売買の相手方となった証券会社は,やがては「取引所」でそのポジションを調整し,立会い外ないし市場外取引によって引き起こされたポジションをもつリスクをいかに避けるかが,重要なテーマであることがわかった。取引所は「一括した」売買注文の機会を提供していないので,投資家がバスケット売買を自ら取引所で行おうとする場合,バスケットを構成する銘柄ごとに個別の注文を出す必要がある。個々の注文が約定(成立)するのかは,こうした個別注文を行う際に重要な関心事である。そこでティックデータ(約定データ)をもとに「指値注文の執行確率」の推定を試み,ディスカッションペーパーとして公表した。 企業が発行する証券は,企業が生み出す収益への請求権であると同時に,企業経営者に対する資金提供者がもつガバナンスの手段でもある。このことの含意を展望し,「コーポレートガバナンス」(『金融分析の最先端』第5章)および「最近の企業経済学について」として公表した。
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