本研究によって主として次の知見を得た。 1.所得税体系の問題として、資本移動が盛んな高負担経済においては、法人税を含む資産所得税を勤労所得税より軽課し、かつ資産所得全般に均一に課税する二元的所得税が総合所得税体系より望ましいこと。したがって、わが国の資産所得税改革の指針として二元的所得税を採用すべきこと。これらの知見は北欧における総合所得税主義の実際的限界を観察して得られたものである。 2.法人税と個人所得税の負担調整のあり方として包括的事業所得税の方がインピュテーション法など、総合所得税主義を基礎とする伝統的統合方法より望ましいこと。前者は二元的所得税と整合的であり、かつ、課税の公平・中立・簡素をバランスよく充足するからである。 3.以上の所得税体系論を基礎に多国籍企業の投資行動と法人税システムとの関連を分析し、以下の結論を得た。 (1)資本輸出の中立性を基準にすると、包括的事業所得税の方がインピュテーション法より優れている。(2)国内にある親会社の資金調達方法に海外子会社からの海外源泉留保を含めるとき、国内源泉配当と海外源泉配当とを課税上区別すべきでないこと。(3)海外子会社の資金調達方法に移転価格制度を通じる利潤移転の減少を含めると、本国における配当課税のシステムが子会社の投資行動に影響を与える。この場合も国内源泉配当と海外源泉配当とを課税上区別すべきでない。(4)包括的事業所得税法は源泉地主義になじむので、(2)と(3)の要請を充足しやすい方式である。今後、以上の理論的示唆を、日米における多国籍企業の具体的行動に対する税制の作用に関する実証研究に役立てたい。
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