二年間の研究によって、次の成果を得ることができた。一本目の論文は、ホフステッドのモデルを活用して、マレーシアにおけるマレー系と中国系の価値観の差異を明らかにした。「一国一文化」という一般的な考え方を批判し、将来の研究や経営に示唆を提案した。マレー系と中国系の共通点は、高い権力の格差と集団主義を持つことである。しかし、一方でマレー系は高い不確実性の回避や、女性化、時間的に短期思考を持ち、他方で中国系は低い不確実性の回避や、男性化、そして時間的に長期思考を持つことが明らかになった。異なる経済地位に立つ両グループにおいて、価値観の差異が原因の一つであろう。二本目の論文は、マレーシアのブミプトラ(いわゆる、マレー人)起業家について論じた。なぜ、長年わたって政府の優遇政策に恵まれても成功例が少ないのか。政治の影響力や起業家教育、マレー文化の三つのパートに分けて、原因を追求した。政治の影響力や企業家教育は確実にビジネスの成功に関連性を持つ。しかし、本研究はマレー系の文化・価値観が重要な説明カを握っていると仮説する。中国系の人々に比べると、マレー系の人々は高い不確実性の回避や、女性化、時間的に短期思考を持つことが分かった。不確実性の回避が高ければ、ビジネス・リスクを避ける傾向が強い。つまり、ビジネスの拡大や多角化はし難い。女性化とは人間関係や非金銭的なことを重視し、キャリア成功を粘り強く追求しないのが一般的である。そして、時間を短期的に見るなら、将来や長期投資より現時点の消費を重視する傾向を持つ。このような研究成果から、次の研究は実証的に検定しようと考えている。
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