研究概要 |
「ディスクロージャー・システムを基礎としたコーポレート・ガバナンス」は,アメリカを「先進国モデル」として論じられてきた。銀行経営にこのシステムを導入する場合,金融取引が複雑化するなかで,預金者保護・投資家保護,銀行経営の健全性・安定性確保を目標とする銀行監督当局と,投資家への正確な情報開示を目標とする会計プロフェッション,租税徴収の公正性確保を目標とする国税当局など,会計情報やディスクロージャー情報を利用する「各主体」間の「政策目的」の調整が不可避である。にもかかわらず,「不良債権の直接償却」をとってみても,現状は,「政治主導」で進められており,「調整の論理」を明らかにすることすら,今後の課題とされている。わが国の「不良債権開示」をみても,公表不良債権の額として,「比較可能性のための公表不良債権」「新資産査定基準にもとづくもの」,「自主的に開示する自己査定額」などが混在し,公表不良債権と会計処理方法,資産査定方法,税法上の処理等の関係も整合的ではない。市場規律を主軸に金融機関経営の健全性の確保を展望するのであれば,投資家保護を目的とする証券取引法ディスクロージャーと税法での会計処理との「整合」が不可欠である。この点について,キャッシュ・フローの割引現在価値という概念を導入するのであれば,なるほど,米国のFAS107号などにならって,不良債権の会計処理法を明定することは可能ではあるが,わが国の中小企業取引において盛行している手形取引などの商慣行を考慮せずに,現金取引ベースで発達してきた「割引現在価値」概念を導入すれば,いたずらに混乱を招くだけの結果に終わってしまう。このように「コーボレート・ガバナンス」をわが国で成熟させるには,「商慣行」や「取引慣行」の研究が不可欠だと思われるので,この観点から引き続き,研究を発展させたいと考えている。
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