研究概要 |
本研究の研究実施課題はつぎの3点である。 課題(1):ゴーイング・コンサーン監査が実施されている諸外国での実務を参照し、ゴーイング・コンサーンとしての企業の存続が危ぶまれた事例において会計監査上どのような対処がなされたのかについて帰納的に探求するというケース・スタディの実施による、監査人の具体的・包括的な判断規準・指標の解明 課題(2):この判断規準・指標を、理論的な研究成果とあわせることによって、監査人のゴーイング・コンサーン監査における判断モデルの新たな構築 課題(3)当該判断モデルを、わが国の東京証券取引所第一部上場会社が事実上倒産したケースに応用し、わが国でのゴーイング・コンサーン監査の実施の可能性の探求 課題(1)について、アメリカ企業500社のアニュアル・レポートを調査し、ゴーイング・コンサーンに重大な疑義のあるケース150社について、その開示内容から財務分析を行い、「重大な疑義」に対する監査人の判断指標を分析した。 課題(2)について、課題(1)によって得られた判断規準・掛票を総合化し、ゴーイング・コンサーン監査における監査人の判断形成モデルを完結させた。 課題(3)について、わが国の倒産企業にかかる財務データおよび非財務データを収集し,上記の監査人の判断形成モデルへの変数データとして組み込めるようにデータの整理,加工,および分析を行うことを通じて、わが国でのゴーイング・コンサーン監査実施の実行可能性を検討した。さらに、科研最終年度にあたり、上記3つの課題について研究の総括を行った。 本研究は、以上のように一定の研究成果を得たものである。しかしながら、この研究期間内において、わが国の監査基準が約10年ぶりに大きく改訂され、ゴーイング・コンサーン監査の実施ならびに報告に関する規定が新たに設けられたこともあり、本研究で得られた監査人のゴーイング・コンサーン監査の判断規準の基礎モデルをさらに発展させ、現実の実務に十分応用・適用可能なものにさらに精緻化していくための研究の必要性が認められる。そのためには、わが国の監査における監査人の判断結果に関する実際データの入手可能性が確保される必要性があるが、本研究の実施を通じて当該実際データの入手がきわめて困難であったことを問題点として指摘しておかなければならない。
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