研究概要 |
今日,わが国の会計は大変革期にある。変革の最大の内容は偶発事象会計,金融商品会計,減損会計など,将来事象を取り入れた会計認識領域の拡大である。われわれは現代のこのような会計の理論および実務の状況について,より実証的に,かつより総合的に分析・研究することの必要性を認識し,以下のような研究課題を設定し,2年間にわたって,研究・調査をおこなってきた。 (1)将来事象の認識領域化を支える理論的枠組の研究(個別会計基準の検討を含めて):現在のアメリカにおいて,将来キャッシュ・フロー概念を中心に据えることによって,会計の認識領域を将来事象にまで拡大しうる理論的枠組みが構築されていることを明らかにした。そのような将来事象の会計認識領域化は予測・見積という判断領域の拡大をもたらすということも明らかにした。 (2)会計実務上での将来事象認識状況の調査:(1)アメリカの企業についてはS&P100社の財務データおよびForm 10-Kによって,将来予測要素を用いるどのような会計項目が,どの程度計上されているのか(また解る場合には,その金額はどうか)を調査した。(2)日本の企業については東京証券取引所第1部上場企業1,359社に対して「将来事象の判断に関するアンケート」調査をおこなった。回答率は29.95%であった。 (3)将来事象を認識・計上する判断プロセスの調査:(2)の調査に加えて,日本企業および日米の公認会計士事務所においてヒアリング調査をおこなった。 それらの調査結果によって,アメリカにおいては将来事象を認識する会計実務の拡大が加速している状況が明らかになった。それに対して,法・行政による画一的な判断を求めるあり方をしている日本の会計制度においては,予測・見積という判断をともなう将来事象会計に対応が困難であるという状況が浮き彫りになった。今後も,その調査結果に詳細な分析・検討を加え,理論的研究と総合化させて研究論文のかたちで本研究課題を仕上げる予定である。
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