研究概要 |
当該研究の目標は,モジュラー多様体の構造を明らかにすることである.ここで云うモジュラー多様体とは,一次元の場合,{(j(τ),j(nτ))}のなす曲線である.ただしj(τ)はj-不変量である.j-不変量の高次元版は,2次元については得られているが,複雑で取り扱うのに困難であり,3次元以上については知られていない.そこで当研究では,j-不変量の替わりに、レベル2のテータ常数θ_<mn>(τ)^2(m,nはg次元半整数ベクト,τはジーゲル上半空間S_gの点)の比を採用する.古典的にはこれがモジュライと呼ばれていた. 写像Θ:S_g→IP^N(N=2^g-1),Θ(τ)=(…:θ_<a0>(2τ):…)(a∈1/2Z^g/Z^g)を考える。この右辺の比は上のモジュライと本質的に同等である。pを奇素数とし,集合{(Θ(τ),Θ(pτ))|τ∈S_g}⊂IP^N×IP^Nのザリスキー閉包をレベル(2,4)モジュラー多様体と呼び,その定義方程式が次数pのモジュラー方程式の高次元版である.定義方程式については、p=7の場合が新たに得られた.以上を研究する過程で,クンマー曲面のモジュライと密接に関係するエルミートテータ関数の研究に導かれ,これらの関数の微分公式が得られた.これはJacobi,Rosenhainの微分公式の拡張である.その研究の延長として,エルミートモジュラー形式,エルミートヤコビ形式の研究に移行し,次数1のエルミートヤコビ形式に関する斉藤・黒川予想の類似を示した. 本来の目標は,高次元モジュラー多様体の性質を究める事である.これについては,引き続き研究する予定である.
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