研究概要 |
本研究で得られた主な結果は次の通りである. 1.ベクトル値関数に対する定数係数斉2次形式(エネルギー積分)が一様正値である(Poincare型不等式が成立する)ための条件を調べた.空間次数かベクトルの長さのどちらかが2の場合に,slab領域あるいは有界領域の上で一様正値となるための条件を,行列多項式の因数分解を手段とし,シンボルの実単因子の言葉を用いて,ほぼ完全な形で与えた. 2.工学者が非等方弾性体の2次元的変形を扱う際によく用いるBarnett-Lotheテンソルに対して,微分方程式論的観点による新しい導出法を与えた.この導出法は(必ずしも強楕円型でない)楕円型システムを扱うのに適しており,Barnett-Lotheテンソルが楕円型システムの境界値問題,対応する波動方程式の初期境界値問題に対して基本的な役割を果たすことが示される.また,亜音速Rayleigh波(表面波)の存在の判定条件,構成,個数の評価にも大変有効である. 3.滑り境界条件(あるいはそれに共役な境界条件)に対応するKorn不等式の研究を行った.境界上で境界と平行(あるいは垂直)となるベクトル場に対して,通常のKorn不等式が成り立つための必要十分条件は領域が軸対称でないことである.空間次元3の場合には以前から知られていたが,これが一般次元かつ一般のLame定数に対する歪みエネルギーを考えた場合にどのように拡張されるかを明らかにした. 4.弾性波動方程式に対する「移動亀裂問題」を解いた.弾性体が内部に時間とともに進展する亀裂(進展の仕方は既知とする)を含むとき,対応する弾性波動方程式の初期境界値問題が弱解をもつための亀裂先端の制限速度を,いろいろな方向の亜音速Rayleigh波(表面波)の速さ(および限界速度)を用いて,完全に特徴づけた.
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