研究概要 |
本研究課題の目的は物理学で用いられている経路積分に数学的定義を与えることであり,具体的には主に以下の研究を行うことであった。(1)位相空間上の経路積分の数学的定義を与える。(2)量子力学及び自由場について,source Jを持つ母関数Z(J)及び相関関数の経路積分表示の数学的定義を与える。熊ノ郷は,フーリエ積分作用素理論を用いた経路積分の研究,及びフーリエ積分作用素理論自体の整理,拡張を分担した。 研究成果としては,自由場の研究を除いて概ね研究課題を達成することができた。以下具体的に述べる。論文1では,配位空間上の経路積分の収束の研究を行い,1997年度Comm.Math.Phys.に発表した論文の結果の拡張し,経路積分の収束が電磁場ポテンシャルの取り方に依らない(ゲージ不変性)ことを示した。この研究から量子力学での母関数Z(J)の経路積分表示が導かれる。論文2では,物理学で用いられている位相空間上の経路積分を修正した新しい定義を与え,そのゲージ不変性,収束,更にこの位相空間上の経路積分が配位空間上の経路積分と一致することを示した。論文3では相関関数の経路積分表示の研究を行った。従来物理学では位置作用素についての相関関数の経路積分表示のみが知られていたが,論文2で得た位相空間上の経路積分を用いることにより,運動量作用素を含む一般的な相関関数の経路積分表示を与えることが出来た。更に,この結果から量子力学で最も基本的な正準交換関係の経路積分表示も与えることが出来た。この結果の完全な論文は現在投稿中である。熊ノ郷は経路積分の核(kernel)の収束の研究を主に行った。論文4,5でフーリエ積分作用素理論を整理することにより,古典軌道を用いた経路積分の核の収束証明の簡略化を行い,論文6ではこの研究を折れ線を用いた経路積分の核の研究に適用し,その収束証明の簡略化を行った。
|