研究概要 |
本研究の目的は,本来的に勾配的力学系の構造を知るために定式化されたConley指数の理論をより広い対象に適用するべく発展させ,特にカオス的力学系という回帰的で複雑な振る舞いをする力学系の研究に用いて,その位相的構造を記述する方法論を開発することを目指すことにあった.成果は,大きく分けて次の3つである: 1.特異摂動的ベクトル場に対するConley indexの理論の構築,および,そのカオス的力学系の解析への応用:特異摂動的ベクトル場のslow manifoldの次元が1の場合に,特異摂動的ベクトル場の典型的な構造をtube-box-cap collectionと呼ばれる形に分解し,個々の部分的な構造の解析から系全体についてのConley指数の情報を得ることにより,特徴的な解の性質,特に周期軌道やconnecting orbitについての結論を得られる理論を構築した.また,この結果を適用し,ある種の浅い水の流れに関する不規則な振動現象を記述するモデル方程式に適用し,その振舞いがある意味でカオス的であることを数学的に証明した. 2.transition matrixの理論の多重パラメータ族への拡張:transition matrixの概念を再考し,それをMorse分解によって与えられるホモロジーConley指数のなす鎖複体の上の鎖写像として理解するという形の新しい公理的な定式化を得た.さらにこの公理的な定式化を用いて,力学系の2-パラメータ以上の族に対しても自然にtransition matrixの概念を拡張した. 3.その他の関連する結果:位相的な観点からの力学系の研究として,力学系の位相的エントロピーと呼ばれる力学系の複雑さの尺度となり得る位相不変量についての研究を行なった.また,カオス的アトラクタの存在を計算機支援の形で厳密に,言い換えれば有限操作で検証するための研究を遂行中である.
|