研究概要 |
分光観測的研究においては、Keck HIRESによる3重QSO系 Q1623+269の3QSO、KP76,77,78の高分散スペクトルを解析した。大規模構造形成に関係する水素ライマンアルファフォレスト(LAF)と付随する金属吸収線について、解析ソフトVPFITを用いて吸収線の赤方偏移(z)、柱密度(N(H)あるいはN(金属原素))、ドップラーパラメーター(b)を測定した。 測定されたLAFにおけるライマンアルファ(Ly-α)線の総数は、KP76、77,78でそれぞれ153,263,215本である。このうち金属吸収線系が確実に付随しているものは8,8,13系づつある。これらの測定結果を基に以下の主たる結論を得た。(1)N(H)-zの関係から、低分散スペクトルで示唆されていたz=2.08,2.38におけるlogN(H)<14の水素密度の低い領域の存在が、確認された。その視線方向のサイズは11-17h^<-1>Mpcである。また、新たにz=2.50における低密度域の存在も判明した。この低密度領域サイズは下記に述べるCDMモデルでは説明できないものである。(2)単位Z当たりのLy-α線密度(dn/dz)については、logN(H)=13-14のLy-α線では弱い進化を示し、logN(H)>14では強い進化を示すことが判明し、従来の結果と一致した。また、金属吸収線系をもったLy-α線と持たないものとの間には差が無いことも判明した。(3)金属吸収線系の付随するLy-α線のlogN(H)は3QSOにおいてすべて14以上である。これは従来のC IV線の観測限界と、理論計算による水素低密度領域では金属を伴わないということと矛盾しない。(4)N(H)-bの関係より、b>150km/sのLy-α線が観測されたが、これは理論的推定と矛盾しない。現在、これらの結論に関する論文を準備中である。 理論的研究においては、CDMモデルに基づいた3次元宇宙論的数値流体計算シュミレーションを銀河形成、超新星爆発、銀河風の要素を取り入れて行い、大規模構造形成と銀河間物質の金属汚染の進化を調べた。主な結論は、(1)金属ガス分布は極めて非一様で銀河の形成されるフィラメント状の高密度領域に沿っており、パッチ状である。(2)低密度領域には金属汚染が発生しない。(3)O VIなどはLy-α線と同程度のbを持つことが予測されたので、LAFに埋もれてこれまで検出できないと考えられていた金属吸収線の測定を見直すべきである。(4)本研究においては上記観測結果(1)で示された低密度領域サイズは、シュミレーションの空間ボックスサイズ20h^<-1>Mpcのためにその存在の説明はできなかった。今後の課題である。
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