研究概要 |
江口は1997年に堀,Xiongと共に標的空間M上の位相的弦理論を調べその分配関数を打ち消す無限個の微分作用素が中心電荷c=_χ(M)(_χ(M)はMのオイラー数)を持つビラソロ代数の構造を持つ事を示した.平成10年度に,江口はXiong,秦泉寺と共にこれらビラソロ作用素の自由場表示を導き,Mの偶数次のサイクルには1+1次元の自由ボソン場が奇数次のサイクルには1+1次元の自由フェルミオン場が対応すること,従って共形場の言葉を用いて幾何学が記述できる事を示した.江口は更にXiongとともに2次元重力理論の結果を用いて任意の種数の場合の位相的漸化式を導き,ビラソロ作用素が種数2,3の場合にも正則曲線の数を正しく再現する事を確かめた.これらの結果は量子コホモロジーのビラソロ予想と呼ばれる. 超弦理論においてカラビ・ヤウ多様体上の幾何学をランダウ・ギンツブルグ模型を用いて議論することが出来ること(CY/LG対応)は以前から良く知られている.ゲージ化された線形シグマ模型では,理論のパラメーターを変化させる事により,幾何学的な対象空間を記述する領域(カラビ・ヤウ)とスーパーポテンシャルの極地を記述する領域(ランダウ・ギンツブルグ)を内挿させることが出来る.平成11年度,江口は秦泉寺と共に,CY/LG対応を調べ、対象空間がカラビ・ヤウ多様体以外の一般の複素多様体である場合にも,これがスピン多様体であればCY/LG対応に相当する関係が成り立つことを示した.特に,オイラー数,シグネチャー,楕円ジーナスなどの位相不変量が,双方の理論で計算したとき完全に一致する. カラビ・ヤウ多様体Mが退化してそのサイクルが零につぶれる時,M上にコンパクト化された弦理論にはゲージ対称性のenhancementなど種々の非摂動的現象が生じる.このため,特異点をもつカラビ・ヤウ上を伝搬する弦理論の力学を調べることは特に興味深い.江口は菅原と共に,孤立した特異点を持つカラビ・ヤウ多様体上を伝搬する弦理論の振幅に関して,モジュラー不変な分配関数を組織的に構成した.これらの分配関数はカラビ・ヤウ多様体がA-D-E型の特異点を持つのに対応して,A-D-E型の分類を持つ.
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