ブラックホールは、天体の重力崩壊によって形成される極めて強重力の時空構造として注目されてきた研究対象である。特に、活動的銀河中心核に存在していると考えられている超大質量ブラックホールの周辺では、重力によって引き寄せられたプラズマによって磁気圏が形成されており、種々の特徴的な電磁気現象が励起されることが予想される。本研究はこのような電磁気現象の解明を主たる目的としたものである。 1.まず、磁気拡散を考慮した一般相対論的な磁気流体力学に基づいて、定常ブラックホール周辺の回転磁気圏を考察し、磁場強度の増大を引き起こすダイナモ効果の有効性を議論した。そして、ブラックホールの自転運動のみでは、ループ構造の磁力線形状の発展は起こらない(反ダイナモ)ことを明らかにし、従来の研究における論争点に解決を与えた。さらに重要な結果は、磁気圏中のプラズマ流体が光速に近い回転速度で運動している場合には、流体の電荷密度の増大と対流電流の発生によるダイナモ効果が作用できることを示したということである。このような新しいダイナモ過程は、磁気圏の光円柱面近くで起るフレアー的な電磁気エネルギーの放出として興味深いものである。 2.次に、磁場中における天体の重力崩壊を考察し、ブラックホールの形成過程における電磁波のバースト的な放出を解析した。重力崩壊の動的な過程は、磁気圏における磁場強度を次第に大きくしていくとともに、電磁波の発生をもたらすことになる。本研究では、重力場と電磁場との直接的な相互作用に着目することによって、ブラックホールの形成に至るまでの重力場の時間変化を特徴付ける電磁波のバーストパターンの励起を明らかにすることができた。 今後、本研究で考察された電磁気的過程がプラズマ粒子の運動に及ぼす効果を解析し、ジェット状噴出流の生成の問題をさらに検討していく予定である。
|