研究概要 |
本研究では,量子極限における電気伝導の理解を深めるために,液体ヘリウム温度での伝導電子の平均自由行程l_bが5mmにも達する超高純度アルミニウム単結晶を育成し,これを用いて,平均自由行程l_bが極端に長い,いわゆる超高純度領域におけるバルク残留抵抗率の異方性,およびバリスティック伝導特性の結晶方位依存性を実験的に明かにした. 1.バルク残留抵抗率の異方性:アルミニウムは立方晶単純金属の典型的な例であるにもかかわらず,超高純度領域においては,バルク残留抵抗率ρ_bに,従来の電気伝導理論では予測できない,強い異方性(電流方位依存性)が現れる.すなわち,ρ_bは電流方位は[110],[111],[001]の順に大きくなり,[001]方向のρ_bは[110]方向のρ_bの約2倍にも達する. 2.負の曲がり抵抗の結晶方位依存性:バリスティック伝導によって十字型試料に現れる負の曲がり抵抗は,試料の面方位が{100}の場合,電流方位が<110>から<100>に向かうにつれて小さくなる. これらの結果は,超高純度領域においては,(1)電場による電子分布の平衡状態からのずれを1次の無限少量と見なし得ないこと,(2)とくに,フェルミ面がブリルアン・ゾーン境界に最も近接している<100>方向へのずれは,ゾーン境界(ブラッグ反射)の影響と相まって伝導電子の散乱確率を増大させることを示唆している. 3.非線形 電流-電圧特性:バリスティック領域においては,(試料形状によって)電場が僅かでも変化すると,電流の向きに強く依存した非線形 電流-電圧特性が現れる.このことは,上記の結果を支持するばかりでなく,超高純度金属の非線形素子への応用の可能性を示唆している.
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