研究概要 |
量子スピン系では,低次元性やフラストレーションによって強い量子ゆらぎがはたらくとき,基底状態が無秩序状態となりスピン励起は有限のギャップを持つことがある.このような場合に,基底状態の性質とスピン・ギャップ出現のメカニズムを調べ,量子ゆらぎの効果を明らかにすることを試みた. まず,1次元の混合量子スピン系を非線形シグマ模型に変換する一般的な方法を発見した.本研究以前のほとんどの方法では,変換前後で自由度が変化してしまうなど正当性がなく,モデルに依存した変換で一般性もなかった.非線形シグマ模型の位相項からは直ちにスピン・ギャップの有無が判定できる.特に,いろいろな4倍周期の系に対して無秩序状態間の相境界を表す方程式を得て,相図を明らかにした.各相に対して,シングレット・クラスター・ソリッドの描像を導入して,基底状態の波動関数を定性的に説明した. フラストレーションの効果が大きい場合として,1次元では歪んだダイヤモンド型格子上の,2次元では規則的に格子点を除いた正方格子上のスピン系を検討した.これらが実現している物質としては,前者ではCu_3Cl_6(H_2O)_2・2H_8C_4SO_2,後者ではCaV_4O_9が候補となっている.スピン模型を数値対角化すると共に帯磁率などの実験データを解析して比較し,各交換相互作用の大きさとスピン・ギャップの起源を詳しく分析した.これらの物質ではフラストレーション以外の効果が大きいことがわかった. この研究を通して,量子ゆらぎが大きな効果を持つようないろいろな状況を具体的に把握し,スピン・ギャップを生じる条件をいくつかの場合に明確にすることができた.同じくスピン・ギャップを持つ相であっても連続には移り得ない場合があることもわかった.また,一般性のある合理的な非線形シグマ模型の方法を開発できたことは大きな成果であった.
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