ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と酢酸イソプロピルの希薄溶液(系I)やPMMAと混合溶媒tert-ブタノール+水(2.5vol%)の希薄溶液(系II)では非常にゆっくりと相分離を生じる。この性質に着目して、コイルーグロビュウル転移と相分離の初期過程を静的光散乱実験により調べた。測定に用いた溶液の濃度(10^<-4>g/cm^3)は0.6-6.0の範囲にあった。分子量M_w=2.4x10^6と4.4x10^6の系Iでは急冷30分後に高分子鎖は収縮して平衡値に達した。分子量M_w=4.4x10^6と12.2x10^6の系Iを低温のグロビュウル領域に急冷したら、高分子鎖はゆっくりと収縮して、数百分から数千分後に平衡値に達した。この間は相分離は生じなかった。平衡値の膨張係数はBirshteinとPryamitsynの平均場理論と一致した。高分子鎖の収縮過程は時間の冪乗則で表わされ、単一の機構で説明できた。分子量M_w=2.4x10^6と4.4x10^6の系Iと、分子量M_w=1.57x10^6の系IIでは数時間から数百時間にわたって相分離過程の光散乱測定ができた。光散乱のデータはギニエプロットを用いて解析し、相分離初期過程で生じた高分子鎖の凝集体(クラスター)の重量平均分子量<M>_wとz-平均二乗半径<R^2>_zを時間の関数として決定した。両方の系で、ln<M>_wとIn<R^2>_zは共に時間に比例し、その傾きは濃度に比例した。ln<M>_wとln<R^2>^<1/2>_zのプロットはよい直線で表わされ、その傾きは系と分子量に依存したが、3に近い値であった。この相分離の初期過程の挙動は、衝突係数がi+jのSmolucbowskiの式で解析できた。系Iと系IIの遅い相分離過程は反応律速に起因している事が明らかとなった。高分子鎖間の反応はセグメント間の反応に直接関係しているので、高分子鎖のゆっくりした収縮過程も反応律速で説明できた。
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