研究概要 |
高速領域においては軽イオンに対する高精度の阻止能の実験値が存在し、理論的記述も十分な精度で実験値を再現するものが存在する。一方、中速領域では実験的、理論的研究ともに十分とは言えないが、理論的取り扱いの困難さのため実験的研究の重要性がそれだけ大きい。我々は中速及び高速領域の陽子に対するTi,Fe,Ni,Cu,Znの阻止能を高精度で測定し、Bethe-Blochの阻止能公式がどの程度低エネルギー領域まで適用可能か検討した。この際、イオンの行路長の補正が特に低エネルギー領域の阻止能を高精度で測定する場合には重要になることが明らかになった。この補正量の評価にはイオンの物質中における多重散乱による角分布の知識が不可欠なことから、種々のイオンエネルギーと標的物質の厚さの組み合わせに対して、角分布の測定を行った。実験値を忠実に再現できる理論値を用いて、行路長の補正を評価する方法を提案した。我々の方法は経験的な評価式と同程度の補正量を与える。高エネルギー領域の阻止能の実験値からは標的物質の平均励起エネルギーを求めることが出来る。本研究で求めた5種類の元素に対する平均励起エネルギーの値は、他の研究者達によって求められている値と良い一致を示すことが判った。Bethe-Blochの阻止能公式がどの程度の低エネルギー領域まで測定結果を良く記述できるかについて詳細に検討することにより、その適用下限のエネルギーに関する情報が得られる。我々の取り扱った領域の元素に対してはBethe-Blochの公式は0.7MeV程度までは問題なく使用することが出来、少し緩やかな条件の下では0.5MeV程度までのエネルギー領域で使うことが出来ることも判った。以上のような成果は、物理学会や国際的な会議及びシンポジウムにおいて発表された。
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