研究概要 |
北海道の火山性湖沼である阿寒オンネトーと屈斜路湖を研究対象に,平成10年度〜11年度の2年間にわたって,同湖の水質特にpHの変動に寄与すると思われる地下熱水の量・化学成分を両湖の熱収支と化学成分収支から評価した.特に屈斜路湖は,1986年〜1990年の間にpH=4.6の酸性湖からpH=6.6の中性湖にドラスティクに変化し,これに伴う同湖の富栄養化と共に,この原因を追究する事は杜会的にもインパクトが大きいと判断された. 初年度の夏季(平成10年8月26目〜10月2日)に,阿寒オンネトーで気象観測・船上観測・水位観測や河川・湖での採水による水質分析を行い,同湖に対する水収支・化学成分収支を評価した.水収支の結果から,同湖への地下水流入量は0,012〜0.049m^3/sであり,全河川流入量の60〜132%に達することが判明した.他方,化学成分収支によって,この地下水起源は雌阿寒火山体の熱水系からではなく比較的浅い循環地下水であり,降雨による地下水貯留量の季節変化が同湖の水質を決めている,と判断された.以上から,阿寒オンネトーの短期的な水質変化は,雌阿寒岳火山体の浅層地下水が大きく寄与していることがわかった. 平成11年4月〜平成12年2月の期間には,屈斜路湖において阿寒オンネトーと同様の観測・調査を実施した.この期間は融雪期・夏季湖水停滞期・秋季多雨期・結氷期を含み,同湖の水収支と化学成分収支を季節ごとに評価した.ここでは,特に流域内のアトサヌプリ(硫黄山)を熱源とする川湯温泉や湖東岸から湧出する温泉水の水質寄与に着目した.試水の化学分析の結果,湖内での正味の沈殿・吸着・溶出の可能性が低いCa^<2+>,Mg^<2+>,Cl^-,F^-に着目して,これらの収支を評価した.この中でCl^-〜Ca^<2+>間については,1999年8月10日での水・化学成分収支から,Ca^<2+>=378.3μg eq./L,Cl^-=749.5μg eq./L,G_<in>=9.43m^3/s,G_<out>=6.65m^3/,またCl^-〜F^-間についてF^-=16.5μg eq./L,Cl^-=606.0μg eq./L,G_<in>=2.96m^3/s,G_<out>=0.18m^3/sと与えられた.ここで,G_<in>, G_<out>はそれぞれ屈斜路湖に関する地下水流入量・流出量である.ここで生じた問題として,屈斜路湖での回転性表面セイシュによって水収支における湖水位変化Δhの評価に大きな不確定性を含むことである.そこで,この振動が無視できる平成12年2月28日〜3月4日の結氷期に夏季と同様の観測を実施した.現在,この観測で得られたデータ・試水について分析を急いでおり,この結果から屈斜路湖の水質変化に寄与する地下流入量とその化学成分がより高精度で明らかになるものと考えている.
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