研究概要 |
メケレス型ピストンコアラーを購入し,木崎湖主湖盆地の3地点から1.8〜3.3m長の柱状試料を採取して,岩相記載・年代測定・見かけ密度測定・CHN分析・XRD分析などを行った.3層準の放射性炭素年代測定と見かけ密度プロファイルの比較から,これらの3柱状試料はいずれも約1500年間の堆積物であることが判明した.その年代値を基準とした堆積速度は1.3〜1.9mm/y(52〜62mg/cm^2/y)ほどであり,当初の予想よりも大きかった.また,多数のタービダイト層が確認され,それらは,大きな見かけ密度,低いC・N値および高いC/N比で特徴づけられる.主要なタービダイト層は3地点で対比が可能で,大規模な洪水に起因する可能性が高い.C/N比の多くは10〜13程度であり,有機物の主要な起源が湖水中のプランクトンであることを示唆する.C・Nの含有率には周期的変化があり,タービダイトによる希釈効果を除くと,古墳時代〜平安前期にはやや低く,平安後期〜室町前半(中世温暖期)には高く,中世後期(小氷期)には低くなる.一方,石英・イライト含有率には逆の増減変動が認められた.前者は気温変動による湖水温の変化がプランクトンの生産量を規制したものと考えられる.後者についても寒暖の変化が夏季のモンスーンの強弱と連動しており,中国大陸内部における乾湿を支配し,風成塵発生と運搬量を規制した可能性がある.歴史時代の微弱な気候変動がこのようにはっきりと検出できたことは大きな成果であり,さらに過去に遡った気候変動解析の鍵となる.また,タービダイトの発生頻度から推定した洪水の発生頻度には偏りがあり,AD3〜7世紀,9〜12世紀および16世紀後半〜17世紀末は比較的平穏であり,それ以外の時期には規模の大きな洪水がしばしば発生していたと推定される.
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